高屋永遠 個展「It calls: shades of innocence」
このたびアーティスト・高屋永遠は、Lurf MUSEUMにて2024年3月2日(土)から4月8日(月)までの会期で、80点以上の作品を出展する個展「It calls: shades of innocence」を開催いたします。
高屋にとって作品制作とは、自らのいる空間の根源、あるいは「現象の立ち現れる源」を、身体を通して立ち上げる行為です。鑑賞者が作品の前に立つ時、自らを「大いなる自然の循環」の一部として感じられるような、その空間にただ佇むことができるような装置として、高屋は絵画作品を制作しています。
この没入的空間の探究は、青のシリーズ(2017年〜)より始まりました。制作の際、「“青”という語で表現され得る色」のみ用いるという縛りによって、繊細な色のスペクトラムの探究が求められたことで、高屋は自ら色材を練って画材を作り始めます。
工業的に規定されたレディメイドな絵の具がもたらす制限を取り払うこと。豊かな階調の色彩によって独自の奥行きを実現すること。それは、鑑賞者と共有し得る空間の経験を作り出すために必要不可欠な手法であり、それによって初めて、鑑賞者を日常から切り離された精神の空間へといざなえます。
こうした色の探究は、他者や国内外の土地から色材を得て、自らの外にあるもののエネルギーを作品に取り込むことにも繋がっていきます。資生堂みらい研究グループとの共同研究によって、化粧品顔料である「パール剤」を画材として用いる手法を身につけると、絵画空間の密度や奥行き、繊細さはさらに増していきました。そうした外部性に呼応するように高屋自身の世界も広がり、その間旅や滞在制作で訪れた熊野の那智滝、別府の間欠泉は、「大いなる自然の循環」を経験し、さらに作品探究を深めていく契機となりました。
本展にて新しく発表される「罔象」シリーズは、表面的な自然物の描写ではなく、まさにそうした自然の奥にある自然、混沌と無限を有した自然そのものの経験を表現しようと試みたものです。
<展覧会ステートメント>
命題15において、言語の限界に直面した時、私は一度筆を置きました。
論理実証主義から遠のくという選択でもありました。
言語の限界が世界の限界であり、語ることができない領域をいかにして示すことができるのかー。
そのようにして、新たな探求が始まったのだと思います。
「言い表し得ぬものは、存在する。それは示される。それは神秘である。」(*1)
神秘を心的世界とします。それは、物理的世界ではありません。それゆえに、カメラのような物理的な眼ではなく、幾何学的な眼をよすがにして、その「心的世界」に入り込もうという試みが始まりました。幾何学的な眼というのは、つまり、身体性のある有機的な五感です。
個人的な記憶、集合的無意識、あるいはさらにその奥ー。それらの領域を行き交う心的なエネルギーの全体を旅するとき、形(かたち)は、私の眼がその地点を通過したことを記録するのみです。
作品の平面上に記録された地点と地点とを脳の中で結ぶ時、精神の力動に触れることができるでしょう。
「私」という個人の領域を超えたところにある人間存在の精神の力動へと到達を試みることは、時間と空間の外にある世界への接近を願うからだと思います。
色彩は、この地球に生きる私たち人間が共通して感覚することができる精神の物質です。
本展で示したいのは、そうした精神のダイナミズムの先に現前する「無底の底」であり、あるいは「空」と呼ばれてきたものです。それが、私が存在の「深淵」と呼称してきたものでもあります。
そこには過去もなく現在もなく未来もなく、死さえもありません。 色彩は、その領域を示すことができる唯一の手段と考えられます。
そのようにして、意味形成としての絵画を退け、新たな地平を開こうと試みています。
高屋永遠
(*1) ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン. 『論理哲学論考』 : 岩波書店 2003年 256p
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自らの画風にたどり着く転機となった「青のシリーズ」から、作家としての現在地を示す最新作「罔象」までを総覧できる展示となっております。
また、本展に合わせて制作したTシャツをLurf MUSEUMの会場およびオンラインストアにて販売するほか、4回にわたり有識者を招いたトークイベントを実施いたします。ぜひ足をお運びください。
【展示概要】
会期|2024年3月2日(土) - 4月8日(月) *不定休
会場|Lurf MUSEUM / ルーフミュージアム 1F・2F
時間|11:00 - 19:00
住所|150-0033 東京都渋谷区猿楽町28-13 Roob1
入場|無料
1992年東京都生まれ。
ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ卒業。
2022年現在、東京を拠点に活動。
流麗な線と神秘的な色彩が特徴的な絵画は、空間、時間、存在についての領域横断的な考察に基づき制作される。
Instagram: @towatakaya
公式HP:https://towatakaya.com/