高屋永遠 個展「桜時」

 

朦朧とした形態は、どこまでも軽く掴みどころのない生の気配。
偶然に生まれ落ちた生。大きな流れから、どのようにそれは到来したのだろう。
ー 高屋永遠 ー

 

本展では、高屋永遠がこの1年半にわたり制作を続けてきた「桜」のシリーズから、最新作も含めた約20点を展示します。

現在日本中で広く親しまれているソメイヨシノは、実はたった1本の樹から生み出されたクローンだと言われています。いわば個であり群でもあるというその性質は、桜並木で一面に広がる桜色の風景にもどこか重なります。

高屋はそんな個の境界線が曖昧になるような広がりのなかに、青のシリーズ『存在するとは別の仕方で』から続く「存在感覚の探究」の可能性を見出しました。抽象の探究を具象的なテーマに展開するこうした試みの成果は、すでにヘルツアートラボや寺田倉庫WHAT CAFEの展示などで発表されています。

また、今回の出展される「桜」シリーズの作品の中には、モチーフの不定形性や群体性を備えつつも、これまで作家が用いることの無かった色彩による「明るさ」や「軽やかさ」に満ちているものもあります。それはあたかも、これまでの作家の内省性やストイックな探究からの解放のようにも感じられます。

作家自身によれば、この色調の変化は、鑑賞者が「桜」に対して抱く個別具体の思い出からの影響、そして「桜」というモチーフが要求する多色性への応答が引き起こしたものです。たしかに原則一色のみで仕上げていた青のシリーズと比べると、色幅も広がり、色同士の関係性も複雑化しています。「青」の表現するものが深淵で揺らぐ微かな光だとしたら、「桜」は意識的なコントロールを逸脱した、いわば乱反射する光だといえるでしょう。多色がもたらす偶発性を受け入れ、いかにそれに身を委ねるかを考えながら筆を進めた結果、今回の作品には予期せぬ散逸性や軽やかさが生まれました。

こうした変化を肯定することは、一貫性の軽視とも捉えられかねません。しかし、これまで身体感覚や浮遊感を探究してきた高屋にとって、「白さ」や「明るさ」によって表現された重力の欠如、光の浄化作用は新鮮な経験であり、自らの手法を拡張する契機ともなったはずです。

存在の重さやその深淵を探究してきた作家は、「軽さ」にどのように挑むのか。「明るい深淵」なるものを描くことは可能なのか。今回の最新作は、新たな季節への挑戦でもあるのです。

 

【概要】

 展示名:高屋永遠 個展「桜時」
 会期:2022年4月7日(木)〜4月17日(日) 13:00~18:00
    *4/7, 8 来訪事前予約のみ(事前予約はこちら
    *会期中無休
 開催場所:WHYNOT.TOKYO(東京都目黒区五本木2-13-2 1F)
 入場:無料

 今展示作品は、特設サイトにて同時オンライン販売致します。

 

展示作品(一部)

 

高屋永遠(たかや・とわ)/ 美術家・画家

1992年東京都生まれ。
ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ卒業。
2022年現在、東京を拠点に活動。

流麗な線と神秘的な色彩が特徴的な絵画は、空間、時間、存在についての領域横断的な考察に基づき制作される。

Instagram: @towatakaya
公式HP:https://towatakaya.com/